AI NEWSLETTER Vol.28
SEPTEMBER , 2019
ニュースレター第28号です。今日は人事マネージャーが持つべき視点についてです。
弊社は「人事の学校」という講座をバンコクで開講していますが,「人事は経営を学ぶべき」と繰り返し伝えています。
人事に必要な「2つの目」
人事を知らない経営者は、しばしば人の心理やモチベーションを理解しない手法を取ってしまい、組織を動かせずに失敗します。しかし一方で、経営を知らない人事は、時に理想論を振りかざすばかりで、業績に貢献するアクションを取ることが出来ません。
人の気持ちに配慮する「温かい目」と、同時にビジネスの現実を直視する「冷たい目」の両方が人事には求められます。
ここで少し別な話をしてみたいと思います。
以前ツイッターで、ある元陸上選手のツイートが炎上し話題になりました。
彼は「スポーツ選手が、誰でも頑張れば成功できるというのは間違い。オリンピック選手になれるかどうかは、99%は遺伝で決まる。努力すればきっとできるようになるから頑張ろう、は正しくない」といった意見を述べました。
それに対してネットでは多くの反論が集まりました。「指導者として努力の大切さを否定するな」「夢を持って頑張っている若者に失礼」といった意見です。一方で「冷静に見ればそれが真実」という意見も少なからずありました。
みなさんはこの議論、どう思われるでしょうか。
この議論は実は2つの異なる視点がぶつかっており、議論として成立していません。
それは「記述的理論」=論理的に考えてどちらが正しいのか、「規範的理論」=倫理的に、どうあるのが望ましいのか、という考え方、です。
「アスリートとして成功するには遺伝的要素が重要」なのは客観的、分析的に見れば正しいでしょう。一方で、「努力すれば誰でも少しずつ上達する。そしてその中には夢をかなえる人もきっといる」という考えも、決して間違ってはいません。
この2つの考え方はものの見方が違うだけで、いずれも正しいのです。
さて、我々人事の仕事においても、こうしたぶつかり合いが見られます。
「一人一人には可能性があり、必ず成長する」という考えを持って人材育成に当たることは大切です。倫理的に、望ましい考え方だと思います。
一方で、同時に経営というのは目標を達成しないといけません。
論理的に考えて、「今のやり方で目標は達成できるのか?」という視点で、人材や組織を見つめる必要もあります。時には、人を入れ替えたり、またパフォーマンスを上げるための厳しいフィードバックも必要になります。そうした面もまた、人事の一つの側面となります。
人に優しくすることは、人に厳しくすることよりも簡単です。人に優しくするだけの人事、経営であればだれでも出来ます。
より難しく、しかし価値があるのは、「人のモチベーションを高めながら、同時に目標を達成する組織」を作り上げることです。世の中こうした事を実現できている経営者や人事というのは一握りだと思います。
経営者は、どうしても目標達成にコミットしがちになり、人の気持ちまで配慮が行き届きません。そこを人事はサポートする立場にありますが、理想論だけ振りかざしても経営者は納得しません。現実を見つめ、経営者の目線を持って議論できることが、人事マネージャーとしての価値を大きく高めます。
人の気持ちに配慮する「温かい目」と、同時にビジネスの現実を直視する「冷たい目」。この両者を持っていることが、優れた人事マネージャーや人事コンサルタントの条件であると私は考えています。
今回もお読みいただき有難うございました。