AI NEWSLETTER Vol.18
SEPTEMBER , 2018
移り変わる人と組織の関係性
時代の変化を受け止める
企業視点の人事施策から従業員視点の人事施策へ
これまで多くの企業は、カンパニー・センタードといって会社を主体として様々な人事施策を企画し、施行してきました。雇用関係を従属関係に近いものと考え、経営者と従業員という対比で関係性を認識していたと思います。また、それを私たちは当たり前のように感じています。しかしながら、時代は少しずつ変化を迎え、雇用関係をフラットに捉えるような、そんな見方をする動きも出てきました。
「雇用関係や働き方などに対する概念にDisruption(崩壊)が起こっている。」そのような言葉を世界のHR界隈で聞くようになりました。崩壊と表現されるのはなぜでしょうか。それには様々な要因があります。雇用形態の多様化(正社員、契約社員、フリーランスなど)や国籍・異なる文化を背景とする人々との協働などもこれまでの組織と従業員の関係性に大きなインパクトを与えています。また、デジタルネイティブと言われる新しい世代の労働市場への参入、主に1980年代以降のミレニアル世代は金銭報酬や地位よりも働く目的や有意義な経験ができるかどうかを重視すると言われています。従属することで得られる安定性よりも、その組織に居る目的や経験に価値を置き、それを感じられなければ別の機会を探します。他にもAIを始めとしたテクノロジーの影響を受けて労働集約、単純労働が機械やロボットに置き換わるであろう、と言われていることも理由の一つです。人の価値の生み出し方が大きく変わり、個人個人の創造性の発揮に焦点が当たる時代になりつつあります。個人と組織のつながりが従属的ではなくフラットに、そしてその繋がりも緩やかになりつつあります。
目的意識と組織で得られる経験に価値がおかれ、いかに自分の能力を開花させキャリアに結びつけていけるか、そういった観点で個人が働く場を選ぶ時代になりました。企業 は、個人にどんな機会や経験を与えられるだろうか、秩序化、硬直化、構造化された組織の在り方を見直し、従業員個人の創造性を開花させるにはどうしたらいいのか、世界 の企業や人事はそのような難題に直面しています。「いかに人が持つポテンシャルを解き放つことができるのか」そういった視点で組織や人事施策を見直す、授業員の視点を 取り入れた人事施策を導入する企業も増えてきました。
「EMPLOYEE ENGAGEMENT」とは、何か。
従業員個人の創造性を開花させる、どのような経験や機会を欲しているか、キャリアを欲しているかを企業側が把握 することが必要な時代になった、と前段でお話しました。そのことを考える上で必要な考え方のひとつに Employee engagement というものがあります。
Employee engagement(従業員エンゲージメント)とは、従業員と企業の結びつきが強いこと、従業員が企業に愛着心があることを言います。企業が向かう方向性と自分を結 び付け、自発的に企業活動に貢献しようとすることを表し、エンゲージメントの高い企業は能動的な従業員が多く、業績が良い、向上していると言われています。離職防止や業 績アップを目的に、従業員が安心して⻑く働いてくれる、かつ自分の能力を最大限に発揮し会社の成⻑と自己成⻑が 一致するような、そんな取り組みに注目が集まっています。従業員がただ満足して安穏として日々を職場で過ごすだけではなく、組織のために主体的に自分の能力を活かそうとする「主体的」という意味がこのエンゲージメントという 言葉に込められています。
従業員エンゲージメントを高めるために
では、この従業員エンゲージメントを高めるための具体的な取り組みをいくつか例として挙げてみたいと思います。
従業員個人の創造性を開花させる、どの ような経験や機会を欲しているか、キャ リアを欲しているかを企業側が把握する ことが必要な時代になった。
取り組みとして多いのは従業員満足度調査、従業員 向けのサーベイです。このようなサーベイは、従業 員や組織の今の健康状態を理解し、改善のために適 切なアクションを思案・実行するために行われます。
年に1回などのペースで調査を行う企業が多いようですが、最近は脈を測るように簡単に週次もしく は月次で簡単な調査を行うパルスサーベイというものが取り上げられています。(パルスとは日本語 で脈拍のことを指します。)例えば、チャットや決済、ゲームなど様々なモバイルアプリサービスを 提供するLINE社では月に1度、このパルスサーベイを実施し、上司・部下との関係性、チームの関係 性や組織風土、仕事へのモチベーションなどを把握、上司が環境や関係改善、関わり方を変えるといっ たアクションを逐一取れるようにしています。他にも上司と部下が頻繁に会話できるような仕組みや メンバー同士が気軽につながり仕事の相談やフィードバック、仕事への御礼や賞賛をお互いに伝えら れるようなアプリの導入などをしている企業もあります。また、チームでのコラボレーションやナレッ ジの共有を促進するようなプラットフォームなど、うまくオンライン、デジタルツールを利用しつつ、 従業員の視点からエンゲージメントを高めていく環境や人事の仕組みを如何に作るかという点にシフ トしています。
他にもオンボーディングプロセス(採用から入社、入社後)での細やかな支援や配慮により如何に会 社や組織に愛着を持ってもらうか、や従業員の学習機会の創出、設計、またオフィス環境、従業員の 健康管理サポート、プライベートと仕事の両立支援など様々な観点からエンゲージメントを高める取 り組みを考えることができます。
従業員エンゲージメントが高い企業はより短いスパン、少ない質問、頻繁な機会を通じて人事が上記 のような観点から従業員の要望を細かく聞く接点を作っています。細かく要望を把握し、適切なアク ションを取る。企業内での経験を固定化・化石化させたり、無機質なものにとどめるような施策の展 開をやめ、人々の感情が動き共感を呼ぶような営みを作り出せるか、が人事の手腕の一つとして問わ れるようになっています。
BELONGINGとPURPOSE
マイクロソフトが2015年に買収したビジネス特化型のソーシャルネットワークサービス LinkedIn の CHRO のパット・ウェイダース氏は、「Capturing the Power of Belonging & Purpose(一員になることとパーパスのパワーをつかむ)」というタイトルで講演をされたことがあります。「Belonging」とは所属しているということですが、ウェイダース氏は、Belongingを「私がチーム の中で本物で(自分らしく)いることができ、大切にされていて、本質的な存在である」と感じてい ることと定義されていました。そして、こうした感覚を日々のどんなMoment(時)の中でももてるようにすることがエンゲージメントを高める上では重要だと。他にもPurposeがあるとき、仲間や家族がいるときに人は幸せを感じる、とも。仕事の中で従業員が如何に自分の仕事のPurposeを感じることができるか。メンバーや上司からの承認や安心感を得る習慣を作り出せるか。そんな視点で人事は従業員のことを考え、マネージャーやリーダーは部下やチームのことを考えることができれば、どれだけ大変な仕事や辛いことがあっても全員で乗り越えられる、そんな強い組織になるのではないでしょうか。
読者からの相談コーナー
Asian Identity の 人材コンサルタン トがマネジメントを担う方へのおスス メの本はありますか? (No.9)
ザ・ビジョン 進むべき道は見えているか by ケン・ブランチャード
英:Full Steam Ahead! Unleash the Power of Vision in Your Company and Your Life
組織や会社を率 いるリーダーの多くは企業理念(ミッ ション、ビジョン、 バリュー、行動指 針などと呼ばれるもの)が、会社経 営において大事なものだと言います。このニュースレターの読者の中にも、所属する組織の理念 やビジョンに触れる機会がある方もい らっしゃると思います。しかしながら、「なぜ、大事なのか」を改めて考える 機会はそんなに多くはないでしょう。
本書は、このビジョンの重要性、創り方、組織への効果的な浸透方法をストーリー形式で分かりやすく説明していま す。ビジョンとは何か、なぜ大切なの か、どうすれば従業員から共感を得られるようなビジョンを作り出せるのか、 組織のメンバーを巻き込んでいけるのか。そんな疑問にヒントをくれる一冊 です。組織やチームのメンバーに目指 すべき方向を示し、全員一丸となってビジョンを達成できる風土を作りたいリーダーの方にお勧めの一冊です。
AI college 10月・11月開講予定講座のご案内
日・タイ異文化コミュニケーションワークショップ
10月11日(木)1日講座・THB 10,000
日本人、タイ人双方ご参加いただける講座です。
タイ人と日本人の文化の違いがどのような形で職場におけるミスコミュニケーションを引き起こしているかを理解し、どのようにすれば建設的に違いから生まれる課題を解決・マネジメントしていけるかを考えます。 異なる文化背景を持ったチームメンバー同士が信頼ある関係を構築する方法を学べる講座です。
日時: 10月11日(木 )9時〜17時
場所: Asian Identity セミナールームにて(トンローソイ10)
料金: 10,000 THB (VAT別)