AI NEWSLETTER Vol.60
OCT, 2024
「キャリア・エンディング」にどう対応するか
「キャリア」というと、階段を上るイメージが一般的です。しかし、当然ながらキャリアの階段を下りていくステージもあります。キャリア・エンディング、つまり定年退職を迎えて次のステージに進む時期です。
日本では65歳、タイでは55歳で定年退職を迎える人が多いでしょう。キャリアアップに比べるとキャリアの終わりは少し寂しいイメージもありますが、誰しも避けては通れません。「自分はまだまだ若いから関係ない」と考えているうちに、気が付いたらいつの間にか近づいたという方も多いでしょう。「キャリアの終わり」を迎えることは、誰にとっても簡単なことではありません。
様々な会社で聞く話として、キャリア・エンディングが近づいた世代が、だんだん頑固になったり、機嫌が悪くなることがよくあります。その結果として、周囲との関係がギクシャクしてしまい、チームのパフォーマンスにマイナス影響を与えます。
周りからは「早く後継者に引き継いでほしい」と思われています。その一方で、本人は「自分だってまだまだ頑張りたい」「これまで頑張ってきた仕事を手放した後、一体どうしたら良いのか」という、不安や寂しさを抱えていることも多いでしょう。
「年齢」のダイバーシティ
日本では年を取って周りに迷惑をかける人を「老害」と表現しますが、あまり良い言葉とは思いません。立場の異なる人への想像力を書いた言葉です。そういう言葉を使う人こそが、自分がその年になったら老害になる可能性を秘めていると思います。
国籍やLGBTなど、多様性の重要性が叫ばれますが、「年齢」も一つのダイバーシティです。価値観の異なる相手を一刀両断するだけではものごとは解決しません。それぞれの気持ちに想像力を持って向き合わないと、良い組織は作ることはできないでしょう。
「次の世代に何を残すか」が キャリア後期のテーマ
人間の成長ステージを説明した「アイデンティティ心理学」(エリクソン)によると、キャリアの後期には「世代性(Generativity)」つまり「後に何を残すか」というマインドセットに移行することが重要です。
Generativityに移行できない場合、Stagnation(停滞)が起こってしまい、自己陶酔や自己満足に陥ります。コンサルタントとしての私の観察では、確かに部下を持っている人の方が、部下を持たない人より幸せそうに見えることが少なくありません。
「自分」を主語にする状態から、「誰かの活躍を願い、喜ぶ」という「他人」を主語にするメンタリティも持つ。そうすることで、キャリア後期においてはより人生に充実感を感じられます。
組織の世代交代や事業のイノベーションの観点から考えると、一定年齢になったらマネジメントの一線を退くことが望ましいでしょう。しかしその後も後輩のアドバイザー役をお任せしたり、社内のサポート業務もお願いするなどして、「次の世代に役に立つ喜び」を感じてもらえるようにしてあげたいものです。
「手放し」がステージ移行のキーワード
さらに、「終末期」には「自己統合(Ego integrity)」がキーワードになるそうです。自身の人生を回顧し、そこに「意味」を見出すこと。それができないと「絶望(Despairs)」が訪れると言われています。
自己統合を行うためには、丁寧な振り返りと周囲との対話を行い、「人生の意味を見つける作業」を行っていく必要があります。
キャリア・エンディングでは、何もかもを失ってしまう寂しさを覚えますが、決してそんなことはありません。よく振り返ってみれば、長いキャリアの中で、たくさんの人と出会い、学びそして成長し、そして多くの価値を社会に残してきたはずです。じっくりと振り返っていくことで、自分のこれまでのキャリアを誇ることができるでしょう。それが次のステージに進む準備となります。
そして、次のステージに進むためには、
「複数のコミュニティ」を持っていることも重要になります。
私たちは、会社、家族、友人、地域社会、趣味、など複数のコミュニティに所属しています。しかし、仕事一辺倒で生きてきた人は「会社」のコミュニティ偏重になってしまっている人が少なからず存在します。
こうした人は、いざキャリア・エンディングのステージに来た時に「仕事を手放す」ことに苦労します。「仕事=自分」というアイデンティティになってしまっているからです。自分の業務を後輩に引き継がなくてはわかってはいるものの、それをしたら自分が空っぽになってしまうような気がしてしまい、なかなかできないのです。
常日頃から複数のコミュニティとつきあい、様々な場所で自分の存在意義を確立しておくこと。培ってきたスキルを活かして、地域社会のためにボランティアをしたり、後進世代に向けたプロボノや副業で貢献するのも良いでしょう。何より、自分の家族を最重要なコミュニティとしてもう一度向き合い直してみることが重要です。そうしたことを通じて、自分自身のステージの変化に柔軟に対応することができるでしょう。
終わりは、始まりでもある
キャリア・エンディングは新たなスタートでもあります。平均寿命がどんどん延びる時代です。健康に過ごせば人生は80年、もしかしたら100年くらい続く可能性もあります。突然キャリアの終わりを迎えて焦ってしまう前に、心の準備をしておいて損はないでしょう。
また、若い世代も「まだまだ先の話だ」と思うのではなく、そうした先輩世代への想像力を持つことを意識しましょう。リーダーにとって「多様性のマネジメント」は最重要のスキルであり、またアジアのすべての国が高齢化していく時代に、上下世代とのジェネレーション・ギャップはますます大きな組織課題となることは間違いありません。
私は40代半ばで、キャリア・エンディングの少し手前の段階ではありますが、「ちょっと先の自分」を想像しながら生活するようにしています。あるいは反対に、「若い頃の自分だったらどう考えたか」を考えて視点が偏らないように意識しています。そうした視点を固定化させないことが、多様な人と付き合っていくうえで大事なことではないでしょうか。
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