AI NEWSLETTER Vol.49
NOV , 2021
AIニュースレター、49号です。
今回は「現地化を任せる人材育成は本当に可能か?」というテーマについて考えてみたいと思います。
「現地化を任せる人材育成は本当に可能か?」
コロナ以降、日本企業の駐在員の減少傾向が加速しています。これまで以上に現地スタッフを中心とした経営に移行しようという動きが強まり、弊社にも人材育成の相談などが増えています。
「現地化経営を担える人材の育成」というのは20年以上前からずっと言われてきたテーマですが、これまでなかなかうまくいきませんでした。それはどうしてでしょうか?根本的な原因として考えられる「落とし穴」を3つ上げてみます。
1. 本人にそのつもりがない
「経営幹部になれ」と言われても、本人にそのつもりがないのになるのは難しいでしょう。
日系企業で20年~30年ほど勤め続けてきて、これまでは日本人上司の言うことをよく聞いて、指示を実行していればよかった。その延長線上でキャリアを勤め上げようとしていたのに、いきなり「経営者になれ!」と言われても本人も困ってしまいます。
経営幹部候補という前提で教育を始める前に、本人にその心の準備があるのかどうか。まずはしっかりとそれを確認し、あるいは丁寧に動機付けを行うべきでしょう。
2. 求められるスキルが違う
ミドルマネージャーと経営幹部では求められるものが大きく違います。簡単に言いますと、
・小規模組織の視点から、全社の視点へ
・計画の実行から、分析と戦略立案へ
・カイゼンから破壊・変革へ
といった違いがあります。これだけ聞いても求められるスキルが大きく異なる、ともすると真逆に近い能力が要求されるともいえることがわかるでしょう。
サッカー選手で言えば、昨日までディフェンダーをやっていた人に、明日からフォワードで点を取ってほしい、と言うくらい違うかもしれません。あるいは、選手だった人にユニフォームを抜いで監督をやってほしい、という例えの方が近いかもしれません。
ここまで違う場合、その素養を持っているかをしっかりと見ないといけません。ミドルマネージャーとして優秀だった人が、経営幹部として優秀とは限りません。経営幹部に求められる能力を定義し、果たしてそのポテンシャルがあるかどうかで候補者を選定せねばなりません。
3. 育てる側のコミットが足りない
幹部を育てる側、つまり日本企業の場合は日本人側にも問題があることがあります。
育成というのは基本的には業務の中で行うことです。経営トップが日々会社のビジョンを語り、手本を見せ、時にフィードバックをすることで徐々に育成がなされていきます。
時折、研修をしていれば育つだろうと思っている日本人経営幹部がいますが、それは大きな誤解です。
確かに外部研修などは重要なアクセントとなりますが、あくまで補助剤にすぎません。外部研修に頼りすぎるのは、家庭で親が子供と向き合わずに塾にだけ行かせて成長を期待するようなものです。
正しい期待と支援を、上司である経営幹部がミドルマネージャーに提供することを忘れてはいけません。
では、こうしたよくある「落とし穴」にはまらないための対策にはどんなものがあるでしょうか。同じく3つ挙げてみます。
1. セレクションが大事
上述したように、ミドルで優秀だから自動的に幹部候補とはなりません。本人のモチベーション、さらにスキル面でのポテンシャルがあるかどうかを見ておく必要があります。特に、以下のような能力が重要になります。
・構想力:業界や会社の5年~10年後の未来に持論を持ち、今後自分たちがどう変化すべきかを分析し語ることができるか
・意志力:個人として夢や志を持ち、パッション(情熱)を持って仕事に当たれるか
・影響力:社内外を動き回って人を巻き込み、「ついていきたい」と思わせる発信力があるか
こうした素養は、ミドルマネージャー全員が持っているわけではありません。上記すべてでなくて良いですが、幹部候補生としてのポテンシャルがある人を見極めましょう。
2. アンラーニング ~学びなおす
「学ぶ」というのは2つの方向性があります。一つは新しいものを学ぶ、いわゆるインプットです。読書や教科書を読んだり、また新しい技術を取り入れることでインプットが出来ます。
もう一つ、「アンラーニング」という考え方があります。これはラーニングに「un」がついているので、「学んだことを棄てる」という意味です。つまり、自分の頭の中にあるものをもう一度疑ってみる、ということです。
ミドルマネージャーにもなれば経験も豊富ですから、仕事上で大体のことはできます。ですが、時にそれが固定観念となって、成長の邪魔をするのです。ミドル以降の育成は、「インプット」もさることながら、「捨てる・忘れる・見直す」という角度も重要になります。
具体的には、
・深く自分を見つめなおし自分自身の守るべきもの(軸)と、変えるべきものを発見する
・周囲からのフィードバックをもらい変化の必要性を認識する
といったことを、育成プログラムの中に組み込んでいくことが重要です。
3. 経営幹部との「深いコミュニケーション」で、関係性を作る
3番目は、経営幹部との関係づくりです。とりわけ日本人が幹部にいる場合は、日本人との間で一枚岩として関係を強めることが重要です。
先ほど、「育成とは上司の仕事」と書きました。上司と部下の関係が弱いと、やはり部下の成長スピードは上がりません。次世代幹部として育成したいのであれば、より一段踏み込んだ関係づくりにトライする必要が出来てきます。
深いコミュニケーションとは、
・今後会社をどうしていきたいのか、どうして行ってほしいのか
・それぞれの仕事のやりがいや、働くモチベーション
・上司から部下に、また部下から上司に、もっと期待したいことはどんなことか
といったことを、「双方向」に語ることで初めて深い信頼関係に近づくことが出来ます。
これも家族に例えますと、「子育ては、親育て」などと言ったりします。親も一緒に成長し、変化する覚悟を持たないと子供はなかなか成長しません。企業にも同じようなことが言えるのではないでしょうか。
さて、以上、現地人材育成の落とし穴と提案を3つずつのポイントで見てきました。積年の課題である現地化は簡単ではありませんが、コロナを良い契機として、より一歩コミットメントをした育成を進めるチャンスではないかと思っています。
今回のニュースレターは以上です。お読みいただきありがとうございました!
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