AI NEWSLETTER Vol.38
JULY, 2020
「ニューノーマル」な組織でのマネジメント・テクニック2つ
「ニュー・ノーマル」という言葉を聞く機会が増えてきました。
普段の生活は徐々に通常活動に戻りながらも、普段の生活の中における衛生習慣、またソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の習慣は人々の日常に埋め込まれる形で残ることを余儀なくされそうです。
また、それに伴い企業活動においても、一定割合でのリモートワークを維持する企業が増えていたり、また出張や駐在のハードルが非常に高い事から「人と会わない」前提でのマネジメントというのが組織におけるニュー・ノーマルの一つとなっていくでしょう。
こうした背景の中で、私たちが意識するべきことはどのようなことでしょうか。今日はマネジメントに役立つテクニックを2つご紹介します。
1. コミュニケーションを意図的に可視化する
リモート環境下だと部下の評価がしづらいというご相談を良くいただきますが、これは無理もない事です。部下とのコミュニケーション頻度が減り、また行動観察が難しいという点はもちろんですが、加えて人間の「記憶」のメカニズムが関係していると私は思っています。
脳には「エピソード記憶」という働きがあります。これは、人間はある出来事を、その時の周辺の環境や、自分自身の心情と共に記憶するメカニズムがあるというものです。例えば「あの話したよね、たしかあそこのスタバで」といった具合に、話の内容と共にその場所や周りの風景と一緒に記憶しているのです。
ちなみに、日本人がタイなどの南国に来ると「時間があっという間に過ぎてしまう」「いつの出来事だったのか思い出せない」ということを体験します。これは日本には四季があり、「確か、前回会ったのは寒い時期だったよね」といった風に、季節の移り変わりと共に出来事を記憶する癖がついているからです。このように人間の記憶というのは非常に複合的な仕組みになっています。
リモートワークにおける周辺環境は、基本的には自宅の自室という限定的な環境になります。また部下の様子もPCの画面越しにしか見えません。つまり「周辺環境」の情報が非常に少ないために、会話の内容を記憶するのが難しくなってしまうのです。
それゆえに、通常の記憶の仕組みに頼るのは危険で、意図的にコミュニケーションを「記録」するようにしておく必要があります。上司部下の面談であれば、会話した内容を記録に残しましょう。また、日常的にはいわゆる日報や、あるいは振り返りメールのようなものの習慣化を測りましょう。
これには多少のパワーが掛かりますが、評価のためのみならず、相互理解・状況がリモート環境では薄まりますから、その部分の全体が必要です。そうした意味合いとともに、運用を強化していく必要があるでしょう。
2. オンラインとオフラインを比較せず、目的に応じて使い分ける
さて、タイでリモートワークを導入していない会社だとしても、例えば本社や取引先の会議など、これまで以上にリモート会議は増えたのではないでしょうか。
当然ながら、リモート会議というのはやはりリアルに比べると情報伝達においても不利ですし、またストレスも感じます。なぜかと言うと、人間は「五感」を使ってコミュニケーションしたい生き物だからです。
リアルであれば、話す・聞く(聴覚)、見る(視覚)、に加えて「肩を叩く」などの触れる(触覚)、「一緒に食事をする」などの味覚、も使う事が出来ます。また、直接は意識しませんが場の空気や相手の匂いを嗅覚を使って感じ取っています。そうやって相手とのコミュニケーションを成立させているのです。これは人間がサルの時代から変わらない本能です。
しかし、リモートでは五感のうち聴覚と視覚、つまり「二つの“感”」しか使えません。またそれらの情報がPCの小さな画面からしか入ってきません。そうしたことが脳にとっては違和感になりストレスを感じるのです。
ちなみに余談ですが、大画面・高画質での通信はリアルに近い状態であると脳が錯覚するので、かなりストレスが低いそうです。こうしたデバイスの発展とともにリモートコミュニケーションのストレスは減っていくのかもしれません。
しかし現時点で我々がやるべきことは、バーチャルとリアルは全く異質なものであるという前提に立ち、両者を「比較しない」こと、また上手に「使い分ける」という事をすることです。
使い分けるというのは、例えばサッカーの練習をする場合、晴れている日はグラウンドを使った練習をし、雨の日は室内で出来ること、例えば戦術の共有や筋トレなどをするはずです。雨の日に無理やりグラウンドでやるような練習はしないでしょう。そのように、環境に最適化させた活動を考えることです。
具体的には、オンラインでの会議は、情報伝達やほうれん草の会議は基本的には問題なく出来るでしょう。また、オンライン会議と相性が良いのは「思考」です。例えば、企画会議やブレストのような目的の場は、チャット機能を使ってアイデアを出してもらると、リアル会議よりも発言が出てくるということがよくあります。
我々が研修などをしていても、リアルでは手を挙げないような人が、バーチャルだとチャットでコメントをしてくれます。話すよりも考えたり書いたりすることが得意な方というのは沢山います。そうした、思考を促進したいような場であれば、バーチャルでもうまくいくと信じて企画してしまうのがよいでしょう。
逆に、リアルのメリットをフル活用したいのは、五感を使った触れ合いです。チームのキックオフや方針会議、あるいは月例の振り返り会議など、情報伝達だけでなく、場のエネルギーを高めたり、社員同士の結束を強めることを目的とした場は、やはりリアルでの実施に勝るものはないでしょう。こうした異なる良さを理解し、使い分け、組み合わせていくことが重要です。
以上、今日はニュー・ノーマル時代に活用できそうなマネジメント・テクニックを2つご紹介しました。まだまだ環境の激変は続きそうですが、古い時代に戻ることを期待するのではなく、新しい時代に適用できるよう自分自身をアップデートしていきましょう。
*タイ語バージョンはこちらです。是非、タイ人のご友人や同僚に共有してください。
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