AI NEWSLETTER Vol.26
JULY , 2019
ニュースレター第26号です。今回は、最近よく伺う組織のお悩みについて書いてみます。
弊社に持ち込まれるご相談の多くは「組織の人間関係の悪化」です。幹部同士の信頼関係が崩れている、組織の関係性が悪くコミュニケーションが悪くなっている、といった問題です。こうした人間関係の問題が全くない会社は恐らく無いのではないでしょうか。もちろん私自身も経験があります。このような難しい問題に対して我々はどのように向き合えばよいのでしょうか。
組織の関係性を取り扱う
組織 = 関係性のシステムである
まず大事なのは、「誰が悪いか」という視点で考えない事、つまり「犯人探し」をしないことです。組織と言うのは一つの「システム」で、様々な要素が相互に繋がっている、生き物のようなものです。そこでは、ある一点の問題を取り除けば終わるのではなく、相互の繋がりを意識しないといけません。
スポーツでも、どれだけ優秀な選手を獲得してきたところで、そのチームの戦術やチームワークとフィットしないと活躍できません。また、スーパープレイヤーはいなくてもチームワークががっちりと組み合った強いチームはあります。組織は「点」ではなく「関係性」で捉えることが必要なのです。
つまり、何か問題が起きている場合は、「人ではなくその間にある」と言う考え方をすべきです。誰か間違った考えを持っている人がいるのではなく、情報の共有や相互理解が欠如している、という見方をする必要があります。そうすることで人ではなく「事柄」を問題視し、建設なディスカッションを始めることが出来ます。もちろん、その関係性の真ん中に我々リーダーはいますから、我々自身もその責任の一端を認め、議論に参加していく事が大切です。
Objective Fast
(客観的事実)
と
Subjective Fast
(主観的事実)
組織の関係性をつないでいくときに必要なのは、対話(Dialogue)、つまり相互の意見の交換です。まずは、どのような問題が起こっているのか、またどのような状態にしていきたいのかを話しあうことです。ただし、関係が著しく悪化している場合、こうした場は当事者同士だとどうしても意見の応酬になってしまいがちです。そういう場合は第三者のファシリテーターに同席してもらう事も大切です。
話し合いをする際に、まずは「どのような事実があったか」を確認していく事です。これをObjective Fact(客観的事実)と言います。関係性が悪化しているときは、往々にしてお互いの事実認識が食い違っています。人は、自分にとって重要な事実はよく覚えており、比較的重要でない事実は忘れ去られているものです。お互いの価値観は違いますから、そうした基準の違いから事実認識がゆがんでいくのです。
また同時に、Subjective Fact (主観的事実)という視点も持っておく必要があります。それは「相手がそのような認識を持った、という事も、これも一つの事実である」というモノの見方です。
かつて私は「部下の話を聞かない独善的なリーダー」と思われていたことがありました。私自身は、部下と話を沢山して、部下のよき理解者であろうと務めていたつもりです。しかしながら、コミュニケーションの量が不足していたこともあり、一部のメンバーは全く逆のイメージを自分に持っていました。私自身はそのことに気づかず、組織状態が悪化してから気づくこととなりました。
そういう時、上司はだいたい腹立たしい気分になるものです。「そんなハズはないだろう!」と言い返す人もいるかもしれません。しかし、リーダーが受け止めないといけないのは、「そういう事を感じた部下がいる、という事実」です。これを「主観的事実」と言います。もちろん部下のものの見方にも何かしらの原因があるかもしれません。しかし、そういう印象を持たれたという事実をリーダーがいったん受け止めずして、事態の改善は図れないのです。
論理的解決策を出す前に、感情を整える
解決策を出すうえでも重要なポイントがあります。それは論理的な解決策を出しすぎようとしないという事です。
ここで、ある会社さんの話を紹介します。
組織状態が悪化していたので、全社員にアンケートを取りました。経営陣はそれを分析し、解決策を考えました。
幹部とのコミュニケーションが足りないという問題に対しては経営陣との食事会を、部門間の交流が不足していたので部門横断ワークショップをするという対策を考えました。そしてそれを、全社員会議で発表したのです。ところが、社員からは反対の声が次々と上がります。
幹部 「皆さんのアンケートから施策を考えました。いかがでしょうか?」
社員 「そういうことじゃないんです。なぜわからないんですか?」
幹部 「これは皆さんの声を元にした提案です。他のアイデアがありますか?」
社員 「問題は、経営陣と社員との間の信頼関係だと思います」
幹部 「だから、アンケートをとって話していますよね?一体どうしろと?」
社員 「そういう社員を信じていない態度ですよ・・・」
これは、実際にあった話です。こうした並行線の議論を皆さんも経験したことは無いでしょうか?ここにはどんな問題があるのでしょうか?
ここでは「論理レベル」と「感情レベル」のすれ違いが起きています。恐らく幹部が出した対策は論理的には間違っていません。しかし、それを受け入れられるだけの感情レベルの土台が整っていないため、どんな解決策を出しても心に響かないのです。この状態のまま施策だけ行っても、恐らくカラ回りしてしまうでしょう。
感情レベルを整えるためには、いきなり解決策を出さない事です。感情を整えるためにはVentilation (感情の吐き出し)が必要です。まずは結論を急ぎすぎず、お互いが思っていることをゆっくりと吐き出す、それを聞きあうという事が必要なのです。
・お互いに感じていること(良いところ、悪いところ)
・そもそもなぜこの会社に入ったのか
・今起きていることにどんな気持ちでいるのか、何が嬉しくて、何が残念なのか
・私たちの強みは何か
・今後どうしていきたいのか
等を、結論を出すためのディスカッションではなく、よく聞き理解し合うという事を通じて、お互いの感情を吐き出していくことが必要です。
こうした活動を通じて、組織を強くすること(Organizational Development=OD)が徐々に実現していきます。ただし、人の健康と同じで組織の状態も波があります。組織の関係性も定期的に悪化することがあります。
そうなったと思ったら、定期的にこうした吐き出し(Ventilation)と対話(Dialogue)を行っていく事が組織の健康状態を整えていく上では欠かせません。
以上、第26回は組織の関係性のメンテナンスについてでした。少しでも皆さんの組織運営の参考になれば幸いです。