AI NEWSLETTER Vol.10
JANUARY , 2018
2018年が始まりました。我々の人生の中には、多くの「節目」というものがあります。学校を卒業する、結婚する、子供を産む、引越しをする、などなど。そうした節目という名のイベントは、「それを機会に新しい自分になる」というタイミングでもあります。時間というものは放っておくとどんどん流れて行ってしまいますが、そうやって時間に区切りを入れることで人を成⻑させていく。それは人類が生んだ知恵の一つだと思います。
新年というのは、一年の中でも最も大きな「節目」の一つです。仕事の目標を立てたり、自己成⻑目標を立てる方も多いでしょう。新年というのは自分をリニューアルさせるチャンスでもあります。本ニュースレターを読まれている 方は何らかの立場でリーダーシップを発揮される方が多いと思います。今回はリーダーシップというテーマを取り上げます。
本当のリーダーシップとは
リーダーシップによくある誤解
「リーダーシップ=人を引っ張る」というイメージがあると思います。それは間違いでは無いですが、人は「引っ張ろう」と思っても引っ張れるものではありません。むしろ引っ張ろうと思ってあの手この手を駆使するほど、人の気持ちは離れて行ってしまうこともあります。
何故かというと、人にはそれぞれに意思があります。「馬を水辺に連れていくことは出来るが、馬に水を飲ませることはできない」という言葉があります。最終的に人を無理やり動かすことは出来ないのです。人を動かそうと思って感情的になったり、強い言い方をしたり、また罰を与えたりするのは間違ったやり方で、結果として人はますます離れて行ってしまうのです。それではどうすれば人は「自発的に」動いてくれるのでしょうか。
LeadershipにはLead the Self, Lead the Peopleというステップがあります。人を動かす前に自分を動かすことが必要だという考え方です。強い想いで自分を突き動かせること。そうした姿を見て、結果として人は「ついていきたい」と思います。実はこれが人を動かせるリーダーの第一条件です。
2014年に史上最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタン人のマララさんという方がいます。当時まだ17歳の少女でしたが、今や世界から尊敬を集めるリーダーとして名前が挙がる人物の一人です。彼女は、差別なく教育が受けられる世界の実現を訴え、テロリストから命を狙われる経験を乗り越えてもなお、女性が等しく教育を受ける権利を主張し続けています。彼女は「私には2つの選択肢があった。黙って殺されるか、声をあげて殺されるか。ならば、声をあげて殺されるのを選んだ。」と言っています。危険を顧みず、理想の実現をまっすぐ見据えて主張を続ける姿に、多くの人が勇気づけられ、インスパイアされています。
ここで大切なのは、彼女は人を動かそうとしたわけでも、リーダーになろうと思ったわけでもない、ということです。歴史を紐解くと、キング牧師やマハトマ・ガンジーなど、偉大なリーダーシップを備えていたと言われる人物には同様の共通点があります。理想の実現に向けて強い意志を持つ姿勢が、おのずと人の心を動かすのです。この「Lead the Self (自分を動かす)」ことに、リーダーシップの本質があります。
ビジョンと信頼
もう少し見ていくと、リーダーシップにはどのような要素があるでしょうか。まず一つは、「ビジョン」の大切さです。
偉大なリーダーは例外なくビジョンを掲げています。ビジョンとは、まだ見えていない景色です。マララさんは、性別に関わらず教育が受けられる世界を、キング牧師は人種差別のない社会を、ビジョンとして語りました。リーダーシップ研究の第一人者として有名なW. ベニス は、著書”On Becoming Leader”の中で「Inner Voice (内なる声)」という言葉を用いました。自分の心の声を聴き、「見えない景色」をみん なにも見えるようにしてあげる、というのがリーダーが描くビジョンです。また、ビジョンはエゴに基づくものではなく、「誰かのため」のものであることも大切です。組織や社会をより良くするためのビジョンは、やがて皆に共感され伝わっていきます。
こうしたビジョンは何もノーベル賞をもらうような偉人だけではなく、我々の身の回りにも存在します。皆さんの会社の中に「もっと会社を良くしたい」と熱く語っている人はいないでしょうか。理想の技術や商品についての夢を語る人はいないでしょうか。
そうした人は周りを鼓舞するパワーを持っています。そしてこの能力はポジションに関係なく存在します。若手社員でもそうした強い想いを持って周囲を鼓舞することはできます。あなたがそうした理想や、 情熱を持っていれば、それをしっかり言葉にすることがあなたのリーダーシップの源泉になります。
次に大切なのは「信頼」です。ビジョンがあっても信頼が無いと人着いてきません。信頼というのはよく耳にする言葉ですが、実際にどうすれば信頼が作れるのでしょうか。
信頼には「信頼する」と「信頼される」という2つの面があります。大切なのはこの2つの側面が「同時に起きる」ということです。つまり、 あなたが誰かから「信頼されていない」と感じるとき、あなたも相手 を「信頼していない」という事が起きています。そしてこれは負の連鎖となって、お互いに信頼できない状態がエスカレートしていきます。あなたが「自分をもっと信頼してほしい」と思っていても、あなたが 相手を信頼しない限り、相手は自分を信頼してくれないのです。夫婦喧嘩や恋人のケンカを思い浮かべてもらえるとわかりやすいかもしれ ません。両者が「あなたが悪い」と言い合っていても、状況は平行線のままです。
信頼の負の連鎖を断ち切るために、まずは自分が「先に」相手を信頼する、という事をしなくてはなりません。それがリーダーの取るべ姿勢です。相手とコミュニケーションの機会を設け、自分の考えを正 直に話し、信頼関係の構築を図ろうとすることです。そこで必要なのは相手に耳を傾ける姿勢であり、相手を受け入れる姿勢です。人を動かせるリーダーというのは、相手を自分の家族のように思い、常に愛を持って相手に向き合います。相手を非難したり、感情的になったり、といった行動からは解決策が生まれないことを知っているのです。
日本人とタイ人の間では、言葉の制約がどうしてもボトルネックになります。衝突が起きたらひざを突き合わせてじっくり話す、ということが言葉の壁ゆえに何倍もパワーがかかってしまいます。しかしながらここで逃げずに、ちゃんとコミュニケーションにエネルギーをかけられるかどうかが分かれ道だと思います。
COMMITMENT=「100%」の力を出す姿勢
最後に大切なのはコミットメント、つまり強い気持ちを持ってやり抜く力です。最近ではGrit(やり抜く力)といった言葉でも表現されたり、また同じくリーダーシップ研究で有なS.ゴシャールは、“willpower”という表現を用いたりもしています。
私は、Commitmentを「100%の力を出す」と捉えています。リーダーは見えない景色に向けて歩み続けます。当然ながら、その過程には様々な困難が付きまといますが、リーダーは諦めずに出来ることを最大限やりつくします。そこで環境に文句を言ったり、誰かを批判したり、自分だけサボったり、ということをしてしまっては、人はついてきません。また、「100%の力を出していない」というのは、自分が一番よく分かるものです。100%を出していない自分に慣れてしまうと、だんだん自分に自信がなくなり、成⻑が止まってしまいます。
覚えておきたいのは、「100%の力を出す」ことと「忙しい」とは異なるという事です。前述のゴシャールは、「Active Non-action」(不毛な多忙)という言葉を残しています。一見、様々な仕事があって忙しいようでも、本にやりたいことをやっていれば、人間は忙しいと感じないものです。「忙しい」と感じてしまうのは、自分がやるべきことがわかっていない、またはやるべきことに全力を尽くしていない、ということを意味しています。
最後に
私には、時々教えを乞うている尊敬する人物がいます。30年近くにわたって研修を行っているベテランの研修講師で、既に70歳を目前にされています。
その方は、これまでに1,000回以上も研修を実施しているそうですが、それだけの経験を経てもなお、「毎回、緊張し て眠れない」「いつも全力でやるということを自分に言い聞かせている」ということをおっしゃいます。普通、1,000 回も同じことをしていたら、人間であれば、マンネリ化して手を抜くのが当たり前です。
しかし彼はそれをせず、常に100%の力を出し切る。これが人の心を動かし、結果として高いパフォーマンスをもたらす、ということがその方と話しているとよく分かります。私自身もしばしば研修の仕事をしますが、毎回100%の力を出し切っているか?をいつも問いかけるようにしています。皆さんも、まずは今日一日、全力を尽くしたかどうか。そんな振り返りを是非してみては如何でしょうか。
本ニュースレターが今年も皆さんの役に立つことをチーム一同願って、発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
読者からの相談コーナー
Asian Identity の人材コンサルタントがマネジメントを担う方へのおススメの本はありますか?
Thinking Fast and Slow
By Daniel Kahneman
人はなぜ、時々感情的にものを考え、意思決定をしてしまうのか。
また感情的な意思決定をどのようにすれば避けられるのか、その手法について書かれている本です。 マネジメントのポジションは非常に難しく、自身の感情をコントロールしながら重要な意思決定をしなければいけません。
自分の思考がどういうプロセスで行なわれているかを理解しておけば、従来の思考の癖や傾向を修正することができます。 その点についてこの本は非常にわかりやすく書かれており、全てのマネジメントを担う方にお勧めしたいです。
2月21日(水)開講予定
日タイ異文化コミュ ニケーションワークショップのご案内
2018年2月にタイ/日間の異文化コミュニケーションワークショップ講座の開講を予定しています。
タイ人と日本人の文化の違いがどのような形で職場におけるミスコミュニケーションを引き起こしているかを理解し、どのようにすれば建設的に違いから生まれる課題を解決・マネジメントしていけるかを考えます。
また同時に、本講座では個人個人を理解し尊重することで、多様性のある職場におかる偏見とステレオタイプを乗り越えることに重きをおいています。文化的に異なる背景を持ったチームメンバー同士が信頼ある関係を構築する方法を学べる講座です。