AI NEWSLETTER Vol.22
FEBRUARY , 2019
企業インタビュー特集、第5回目は1996年にタイに進出、精密切削加工のリーディングカンパニーである E&H Precision(Thailand) 様の 社長・平岡様と総務人事を統括されている中野様のお二方にお話を伺いました。(以下敬称略)
同社は日本・東京青梅市を創業の地としながら、東京に本社機能を置かず、タイを本社機能としてインド・メキシコに拠点を展開、全世界 14か国150を超える顧客に切削加工部品を提供しています。
タイに拠点を移し、22年あまり。タイで強い組織を作るため、世界で生き残るために E&H の企業理念を浸透させる。社長自ら強い思いをか けて取り組んだ理念浸透プロジェクトについてお伝えできればと思います。
「一所懸命」 この言葉にかけた思いを従業員 に伝えたい。
まずは簡単に自己紹介をお願いします。
平岡:E&H Precision の社長です。タイ、日本、インド、メキシコの拠点の代表を務めています。昭和37年に東京の青梅市で生まれました。実家は東京青梅市にあるE&Hの日本本社です。1907年に曾祖父が 織物業を始めたのが事業のはじめで1972年に金属加工業に転業しました。私自身は1989年、20代の前半から家業である金属加工業の仕事をするようになりました。タイとのご縁は家業に入った7年後の1996年から。当時の取引先のメーカーがタイに進出し、部品加工できる会社を探 しているということで、私が自らタイで仕事ができるのかどうか、視察にきまし た。ちょうど、中小企業の海外進出ブームの時だったと思います。日本国内だけではなく海外で挑戦したい気持ちがあり、1996年の中旬にアマタナコンで事業を開始することを決めました。E&Hのタイ拠点ができて、今は22年ほどです。
中野:E&H Precision (Thailand) の総務・人事を中心に管理部
門の責任者をしています。E&Hに中途で入社してから5年ほど経ちます。日本が創業の地でありながらもタイが実質の本社機能を担い、数千人規模の従業員がいて世界中に部品を供給している。とても興味深い会社だなと思い入社を決めました。今は管理部門の責任者として幅広く人事、総務、ITまわりを見ています。
E&H様の理念浸透プロジェクトが始まった背景・理由について教えていただけますか。
平岡:企業理念とは、全従業員が認識すべき会社の存在理由、何のために経営をするのかという大義名分です。企業理念こそ最も重要なものであ り、会社の考えを現すものだと考えています。理念の下に戦略があり、戦術、具体的な計画があります。私たちE&Hは、日本が創業の地であるものの、 タイは本社機能を担う重要な場所です。だからこそ、このタイで私がどんな考えを持ちE&Hという会社を経営しているのか、従業員に伝えたかったという 理由があります。以前から経営理念およびビジョンや従業員の価値観や行動指針といったものはあったのですが、ポスターや紙で各所に掲示していただ けでした。従業員は言葉を見てはいる、知っている、でも知っているだけ、見たことがあるだけ。そんな感じでしたね。どうすれば従業員に考えが伝わるか、私の考える強い組織が作れるのか、そこに答えを出すべく始めたのが理念浸透プロジェクトです。
どうすれば従業員に考えが伝わるか、私の考える強い組織が作れるのか、 そこに答えを出すべく始めたのが理念浸透プロジェクトです。
企業理念は、「一所懸命」そこに込められた思いをお話いただけますか。
平岡:一所懸命とは、中世(鎌倉時代)のころの武士たちが将軍から預かった領地を命がけで守る、ということに由来する言葉です。命をかけて自分たちの生活の基盤を守りぬく、ということですね。よくE&Hは従業員から家族みたいな関係性のある会社、だといわれます。私は会社は信頼関係で結ばれた家族のような存在であって欲しいと考えています。家族で和気あいあいと温かく、そういったこともありますが、何よりも大事にしてほしいのは「会社は従業員の生活基盤である」ということ。この生活基盤である会社が続いていくために、この基盤を守り抜くために誠実にコツコツと従業員全員が協力して会社を支えあってほしい。会社はみんなで守るもの、そして社会やお客様の事業に貢献し続ける存在でありたいという願いを込めました。この「一所懸 命」という考えが浸透すれば、家族として一丸となってこのタイ拠点を守り続けてくれる強い組織になると信じています。
「一所懸命」 この言葉にかけた思いを従業員に伝えたい。
理念、ビジョン、従業員の行動指針などを改めて整備し、組織に浸透させたいと聞いたときのお気持ちはどうでしたか。
中野:2008年にリーマンショック、2011年に震災やタイの大洪水など色々な環境変化があったのですが、有難いことにE&Hはいずれの変化も全員でうまく乗り切ってきました。しかしながら、近年は事業の伸び悩みがあり会社全体がこのままどこへ向かうのか、明確でない状況が続いていました。一 方、会社は数千人規模になり、新しい従業員も増えどこかバラバラな感覚がありました。全員が明確な共通した指針や目指すべき方向性を理解してさらに一丸となれないか、そんな風に感じていた時期でした。社長から理念やビジョン、行動指針などを整備し、組織に浸透させていきたいという話を聞いたときは、従業員が新たに一丸となって何かを目指せるきっかけになるかもしれない、そう感じました。
この 「一所懸命」という考えが浸透 すれば、家族として一丸となってこの タイ拠点を守り続けてくれる強い組 織になると信じています。
理念やビジョン、従業員の行動指針などを改めて整備されたと思うのですが、その整備の過程と浸透の取り組みについて教えてください。
平岡:言葉については、自分の考えだけでなく日本人・タイ人幹部の思いを聞く場を数度と作り、整備していきました。例えば「一所懸命」という企業理念については家族というニュアンスをどこまで入れるのか、入れないのか、適正利益とは何か、利益という言葉だけではダメなのか。言葉ひとつひとつの意味合いをディスカッションして幹部全員でE&Hのオリジナルの理念に仕上げていったと思います。できあがった理念についてもタイ人の管理職クラスを集めて、新しい理念についての意見を聞いていきました。好きだ、嫌いだといったことから、なぜそう思うのか、タイ語で訳したときに日本語と同じ意味合いを持たせるためにはどんな言葉にすべきか、そんな声も集めました。みんな結構、色々言ってくれましたよ。
ビジョンについては「2025年までに、連結売上100億円、営業利益率10%の企業となり、立地と人材の優位性を生かした“世界一の自動 旋盤加工会社”として、「自動旋盤加工といえばE&H」と世界から認められる。」というものなのですが、これは私と幹部の思いを集約したものです。これ もどの分野で世界一を目指すのか、金額は妥当か、背伸びしたものなのか、など議論を重ねましたね。
言葉はできた、ではあとはどうするか。それは愚直に伝え続けるしかない、そう思っていました。
言葉はできた、ではあとはどうするか。 それは愚直に伝え続けるしかない、そう思っていました。
中野:ポスターを作成してあらゆるところに掲示をしていますし、従業員一人一人に理念や行動指針を書いたカードを首からさげてもらったりしていま す。毎日の朝礼で理念はタイ語で唱和、そのあとで日本人は日本語で唱和する。タイ人は聞いてますね。その国の言葉を先に、そして日本語はあと で。これはタイのみならず他の拠点でも同じです。インドならヒンディー語が先、日本語はあと。メキシコはスペイン語が先、日本語はあと。 平岡:あとは私自身が月に何度も従業員に対し、理念とエピソードを絡めた話をしています。「一所懸命」の考え、この生活基盤である会社を守りぬく ために、今会社として何を考えているかを一か月に何度も従業員を集めて話をする場を設けています。 中野:社長自ら、本社だけではなく、第二工場やデリバリーセンターに月に何度も足を運び理念や行動指針について話をしています。浸透してきたな、 と思うシーンとしては従業員にもってほしい価値観の中に「自責の念と貢献意識」という言葉があるのですが、タイ人の従業員が日本人に対しで「自責 の念がない、このカードに書いているのに!」と面白半分に日本人に指摘していたシーンを見たときですね。(笑)
あと、浸透させる活動としては、人事の部門の中にER(Employee Relationship)というチームを作りました。彼らが理念の伝道師として、 そして会社が今考えていることを従業員個人個人に伝え、かつ従業員の意見を吸い上げる役割を担うように動き始めています。毎日、どこかの部署を
訪れて面談をしていますね。要望を聞くだけではなく、会社の考えを不明確にせず、明確なメッセージとして伝える、そんな意図です。 他にも毎年の昇 格面談でマネージャー候補の人間はマネージャーバリュー(E&Hが定めたマネージャーとして持つべき行動指針)を理解しているかなど、そのバリューを 体現できる人であるかどうかを面談時に確認するようにしています。
理念浸透、その手ごたえや変化を感じることはありますか。
平岡:2025年までにE&Hとして何を目指すのか、そんなビジョンを理解してもらったおかげでタイ人幹部が自分たちでどう計画を立てるか、実行してい くか、自ら動いている様子が見えるようになりました。あとは、今年は労使交渉が早く終わったこともよかったです。会社は従業員の生活基盤であり、ここ を守りぬくための利益を確保するために何をしなければいけないのか、そんなメッセージを伝え続けた結果だと思います。利益を確保するために、新しい 機械を買う、なぜその機械を買うのか、といった細かいところまでですね。
従業員の中にもこの理念が好きだと言ってくれる子もいて嬉しいですね。さっきみたいに「自責の念がない」と日本人に突っ込みを入れるタイ人も いて、言葉が組織に徐々に浸透している感覚を得ています。まだまだ、ですが。でも愚直に何回も伝え続ける。それしか解はありません。
最後に、これからタイの組織をどのようにしていきたいか思いをお話いただけますか。
中野:日本人が上だ、とかでなく、日本人とタイ人が切磋琢磨してお互いに向上していけるような関係性のある組織にしてきたいです。
平岡:今、タイ・インド・メキシコなど従業員全体で1600名ほどいます。日系企業であることにこだわっていますが、日本の生産拠点はなく創業来の歴 史を語り・今後の歴史を刻む事務所のみです。全拠点合わせても円の売り上げは、0.001% と限りなく0に近い。タイが売り上げの大半なので、タイは 他の拠点の模範となる組織であってほしいです。家族的で上下関係の強くない。これはE&Hの特徴だと周りや従業員から言われるのですが、年齢やポ ジションが上の人間が偉ぶらず、下のポジションや部下の目線に降りて話をしにいっています。これは組織の良いところとして維持してほしいです。あとはタイ人の幹部が自分たちでオペレーションを回し、インドやメキシコへどんどんサポートにいく。今もタイ人がインドやメキシコによくサポートに行っています。タイを本拠地にインドやメキシコも成長していく、みんなで家族として会社を守りぬく、温かい組織にしていきたいです。
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理念浸透で強い組織を作る、そこに代表自ら愚直に取り組むところにE&H様の強さを感じました。 素敵なお話をありがとうございました!
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