AI NEWSLETTER Vol.11
FEBRUARY , 2018
人を見る目を養う
「アジア式組織運営」を考える
Newsletter2月号です。どの会社にも、「問題のある社員」というものはいるものです。私が企業を訪問していると「ある問題マネジャーが居て、その人を切るべきか、それとも信じて育てるべきか・・・」といった話がよく話題になります。もちろん正解の無い問題ですが、我々はどんな考え方でこの問題に向き合えばいいのでしょうか。
「温かい目」と「ドライな目」
少し話は変わります。以前日本のインターネットで、ある炎上事件が話題になりました。タイ人の方にはなじみがないかもしれませんが、元陸上選手の為末大さんという方がツイッターで「努力」についての考え方を披露し議論を呼んだというものです。
要約すると、彼は「誰でも頑張れば成功できるというのは間違い。オリンピック選手になれるかどうかは遺伝や環境で9割以上が決まってしまう」といった意見を述べました。それに対してネットでは多くの反論が集まりました。「身も蓋もないことを言うべきではない」「指導者として努力の大切さを否定するな」といった意見です。一方で「冷静に見ればそれが真実」という意見も少なからずありました。みなさんはこの議論、どう思われるでしょうか?
この議論は実は2つの異なる視点がぶつかっており、議論として成立していません。それは「記述的理論」=物事の実態をドライに分析していく考え方と、「規範的理論」=どうあることが望ましいか、という考え方、です。「アスリートとして成功するには遺伝的要素が重要」なのは論理的・客観的に正しいと言えます。しかし、「努力すれば皆が向上する」ということも倫理的にまた正しいのです。つまりこの2つは「両方正しい」のです。
このような例を出したのは、我々が人材を扱う議論をする時、しばしばこの2つの視点が交錯し、我々を悩ませるから です。
「人は必ず成⻑する」という考えは素晴らしいですし、上司である以上は温かく人を信じる目を持たないといけません。一方で、あなたが経営に責任を負う立場であれば、その考えだけでマネジメントを行うのは少々ナイーブです。「経営のスピード感に合わせて成⻑できない人材は評価できない」とドライに割り切ることも重要です。例えば仮に事業目標が130%だったとしたら、「全員101%ずつ成⻑する」だけでは目標に到達しません。130%成⻑しそうな人間をあえて抜擢したり、101%しか成⻑しない人は別な人間に入れ替える、ということを冷静に考えることも、これも経営のリアルな現実です。つまり「両方の目を同時に持つ」ことが必要です。
一般的に、いわゆる課⻑さんのようなメンバーに近いポジションでは、温かい目で人を育てていくことが求められます。しかしより上位の管理職になると、組織全体を見たドライな目が必要です。そして、小規模組織では両者の役割 同時に担うマネジャーが多いため、両者の視点の狭間で悩みがちです。しかしこれは良い経営のトレーニングになります。人材管理は矛盾のマネジメントです。温かく、一方でドライな目で人材を見つめられるようになることが、リーダーとして成⻑していく重要な要素です。
DATABASED HR=人材をデータで捉える
昨今、すべての分野にビッグデータやAIの活用が進んでおり、人事の分野もその例外ではありません。それは、人材をやや「ドライな目」で捉えるトレンドにやや傾きつつあるということを意味しています。 先ほどのオリンピック選手の例ではありませんが、人材の活用はある程度データによって測定し、予測ができるようになってきています。こうしたトレンドはDatabased-HRと呼ばれています。
Databased-HRが現時点で最も活用されている分野は「人材採用」です。例えばアメリカや日本のIT企業では、採用面接や履歴書は既にAIが行う事例が増えてきています。人間はBias(先入観)を持ってしま いやすい生き物ですから、非常に訓練された面接官を除いては、面接という限られた時間において正しく人を判断するのはとても難しい、ということが研究によって実証されています。もちろん採用プロセス のどこかで人間の目が入り、組織との相性を判断することは必要です。しかし、一部を機会に置き換えることによって全体の効率が上がるという事は否定できません。
また「人材育成」や「組織開発」の場面でのデータの活用も進んでいます。人の成⻑を可視化するアセスメントツールや、チームのエンゲージメント度合いを測定するツールなどです。こうしたツールは、これ まで目に見えなかった「成⻑」や「活性化」というものを、数値化して見えやすくしてくれます。よく「測定できないものはコントロールできない」と言います。体重を図ることで初めて、ダイエットの目標を立てることができるように、何かしらの物差しを当てて数値化することによって、能力開発に対して関心が向くということがあります。
HRの世界というのはどちらかというとエモーショナルな世界で、データやITを苦手とする人が少なくありません。それゆえHRの世界ではデータの活用が遅れてきた歴史があります。しかし、マーケティング活動 においてデータに基づいたPDCAを回していくのが一般化しているように、HRマネジメントにおいても同じことをする時代が徐々に訪れつつあります。経営者、HRが「温かい目」と「ドライな目」の両方を備え、データを用いたHRマネジメントをする必要が出てきている、ということは押さえておく必要があるでしょう。
ID MAP - 人材の成長を可視化するアセスメントツール
タイ人従業員の育成を見える化し、人材育成効果を上げていくためのツールとして、Asian Identityによって開発されました。日本語、英語、タイ語での受験が可能で、従業員の特性やコンピテンシーを測定し育成課題を明らかにします。また、チームとしてアセスメントを実施することで組織の関係性の改善や、チームワークの向上に向けた施策を立てることが出来ます。
読者からの相談コーナー
Asian Identity の 人材コンサルタ ントがマネジメントを担う方へのおスス メの本はありますか? (No.2)
Work Rules!
By Laszlo Bock
‘Work Rules!ʼは読んでおられる方も多いかもしれませんね。Googleの人事トップがGoogleにおける採用、育成、評価について記した本です。
マッキンゼー、GEでの勤務経験を有し2006年にGoogleに入社したLaszlo Bockは、社員が6000人から6万人に増加する過程で人事制度の構築、整備、運用を推し進めた一人者として著名な人物です。
公正かつ透明、な人事制度導入の背景、そして運用、評価まで入念に描かれており、単にGoogleを賞賛する内容ではなく、Googleの人事ポリシーを如何に諸制度に反映させ、徹底しているかがきめ細やかに描かれています。人事制 度の導入・再構築、評価制度の運用に奮闘する人事パーソンにヒントと力を与えてくれる一冊かと思います。
AI college 2月・3月開講予定講座のご案内
日・タイ異文化コミュニケーションワークショップ
2月21日(水)1日講座・THB 8,000
日本人、タイ人双方ご参加いただける講座です。
タイ人と日本人の文化の違いがどのような形で職場におけるミスコミュニケーションを引き起こしているかを理解し、どのようにすれば建設的に違いから生まれる課題を解決・マネジメントしていけるかを考えます。異なる文化背景を 持ったチームメンバー同士が信頼ある関係を構築する方法を学べる講座です。
HR COLLEGE (人事の学校) 採用・育成編
3月16日・17日(金・土)2日間連続講座・THB 12,000
タイにおいても、人事の仕事は従来型の事務的な仕事のイメージから大きく変化し、より戦略的な視点とスキルを持って、経営に付加価値をつけることが求められるようになっています。今回は採用および育成をテーマにタイでの採用、面接スキル向上、また社員の育成や組織開発について包括的な知識・スキルを身に着けることを目的としています。本セッションでは、日本、および東南アジアで⻑年人事・人事コンサルタントとして経験を積んだ講師が、講義とワークショップを交えて人事スキルについての解説をします。
顧客価値創造(カスタマーバリュー)講座
3月23日(水)1日間講座・THB 3,500
営業、マーケティングを担当しているタイ人の方にお勧めの講座です。
顧客のニーズ、潜在ニーズを正しく理解し、いかに自社製品・サービスの魅力を伝えるか、また関係性を如何に持続させるかその方法論を体系立てて学べる講座となっています。自社製品やサービスは理解できても、巧く伝えることができない、顧客のタイプに応じたコミュニケーションの仕方が分からない、などの悩みへの解決のヒントを得ることができます。