AI NEWSLETTER Vol.21
DECEMBER , 2018
「アジア式組織運営」を考える
そろそろ人事評価の季節が近づいている会社も多いかと思います。経営者、マネジャにとって人事評 価というのは時として悩ましい課題です。高い評価をつけることは難しくないですが、低い評価を付 けて、改善点を指摘せざるを得ない社員も存在します。
改善が必要な社員にどのようにコミュニケーションを行えばよいのか。我々は多くの企業で研修など を行いますが、多くのマネジャーからこの点に質問が集中します。今回は、どのように「フィードバッ ク」を行えばよいのかについてコツをご紹介します。
「フィードバックとは ?」
フィードバックとは「現実」を伝える行為
我々が変化、成⻑をしようとした場合、必ず「現実」を知ることからスタートします。例えば、ダイエットをしようと思うと現時点での体重を測定するでしょう。マラソン大会に出ようと思うと、まずは現在のタイムを測定すると思います。「今、現時点でどのような状態にあるのか」を知らないと目標に向けて進んでいくことが出来ないわけです。目的地の地図があっても、現在地がわからないと進み方を決めることが出来ないのと同じです。
しかし、古代ローマ帝国のカエサルが「人間は自分の見たいものしか見ない」と述べたように、人間は事実を正しく認識するとは限りません。仮に自分のメンバーが不満を持っていたとしても、「私のチームはだいたい上手くいっている」と思っていたいのが人間です。ポジティブにモノを見ることは大事ですが、一方で厳しい現実を冷静に見る、という事も重要です。厳しい現実に目を向けない組織は、問題が放置され、やがて衰退していきます。
組織において、現実を伝える方法が「フィードバック」です。周囲の人が、鏡の役割となってその人の現状を伝えてあげることです。1対1で行うフィードバックもありますし、上司や部下、同僚など全方位から行う360度フィードバックというものもあります。健全な組織は必ずこういったフィードバック行為を行っています。それでは、フィードバックを上手に行うためにはどのようなポイントがあるのでしょうか。
フィードバックを成功させる「SSTT」
まず一つはSpecific、つまり具体的に行うという事です。抽象的な指摘、例えば「もっと積極的に なってほしい」といったフィードバックは、どのように改善してよいのかわかりません。例えば過 去の出来事を例に挙げて、「こういう場面では今後こうしてほしい」という具体的な提案をした方 が相手は動きやすいです。
別な言い方をすると、「BeではなくDo」を提案するという事です。Be(あり方)について言及さ れてしまうと、自己否定をされているように感じてしまう事もあります。問題なのはその人の人格 や性格ではなく、行動や振る舞い(Do)であるという事を意識することです。人格、性格は変える ことが難しいものなのでそれそのものを取り扱う事はあまり生産的とは言えません。
2つ目はSincere、正直にフィードバックすることです。ま ず避けたいのは、相手の問題点をあげつらったり、不満や 批判の表出をしてしまう事です。普段、相手に言えない不 満を色々と抱えているのは普通のことですが、それをその まま伝えてしまう事は良い結果を招きません。
そうではなく、「期待」に転換することです。つまり、「こ こが良くない」ではなく「こうしてくれたら私は嬉しい」 というような言い方をすることです。この「私は」という のがポイントです。「アイ・メッセージ」と言いますが、 自分がそう思っているということをしっかりと伝えるとい う事です。その逆が、他人の力を借りて伝えてしまう事で す。「〇〇さんがこう言っていた」「みんな不満に思って いますよ」というのはフィードバックとしては最悪の方法 です。言われた方は、そう思っているなら、なぜ正面から 伝えてくれないのか、という不満が残ってしまいます。
人材育成に力を入れていることで知られるアメリカのGE では、フィードバックをFeedback for Confidence (自信 を持たせるためのフィードバック)と、Feedback for Competence(能力を高めるためのフィードバック)と2 種類に分けて呼んでいるそうです。前者は賞賛や感謝、後 者は改善点を指すと思いますが、改善点というのではなく、 能力開発につながるフィードバック、という捉え方がポジ ティブで素晴らしいと思います。
3つ目はTwo-Way。つまり一方的に行わないという事で す。フィードバックというのは、ついつい⻑くなってしま います。こちらも言いにくいことを言っていますので、う まく整理するのが難しかったり、追加で色々なことがあふ れてきたりします。それをずっと聞かされるのは嫌なもの です。
フィードバックはノートや紙にしっかり準備してコンパク トにまとめ、そして短く伝えきります。(1分で伝えきる くらいが良いとされます。)そして、それについてどう思 うか、の振り返りのコメントを促すことです。人は、「聞 く」より「話す」行為をしている方がよりオープンになり ますから、相手に自分の話を聞かせるよりも、が口を開い て話してもらう事をむしろゴールとしたほうが結果が得ら れます。
最後はTimely。つまり、なるべく早いタイミングで伝えるという事です。半年前のことについてフィードバックされても、なかなか相手の耳には届きません。逆に、もっと早く言ってくれればよかったのに、という思いが生まれます。
人は、「聞く」より「話す」行為をしている 方がよりオープンになりますから、相手に自分の話を聞かせるよりも、が口を開いて話してもらう事をむしろゴールとしたほうが結果が得られます
理想的なのはリアルタイムフィードバック、つまりその場で即時に行う事です。これが最も効果的 とされています。言う方も、言われる方も、心理的コストが最も低いからです。フィードバックは 溜めれば溜めるほど、言う側のストレスになります。「いつかあの人にこれを言わなくては」とい うのは心理的負担になるばかりか、その人へのイメージを悪い方に悪化させてしまい、時としてバ イアス(偏見)を増幅します。リアルタイムが難しい場合でも、2週間に1回程度は部下と短い会話 を持ち、感じていることをコンパクトに伝えることが望ましいです。
最後に。フィードバックをするのは嫌なものですが、フィードバックがある組織と無い組織では⻑ 期的に大きな差が出てきます。フィードバックは個々や組織の成⻑に必要なものですから、「Gift」 と呼んで推奨する会社もあります。相手の成⻑を思って言葉のGiftを贈りあう組織風土を少しずつ 作っていきたいものです。
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