AI NEWSLETTER Vol.58
APR , 2024
Asian Identityニュースレター、58号です。
本シリーズでは、「タイにおける離職」について考えていきます。
タイの離職率はどの程度が適切なのか?
Great Resignation(大転職時代)
コロナ以降、世界中でGreat Resignation(大転職時代)などという言葉がもてはやされています。それ以前から、タイはじめ東南アジアにおいて転職は当たり前の事象です。今日はタイにおける「離職」について考えてみます。
経営、人事の立場から見ると「離職」というのはどちらかというと起こってほしくないものです。現場の戦力がダウンしてしまう、会社にネガティブな雰囲気が漂う、新たな人材を採用するコストもかかる、、、などマイナスなイメージがあります。またマネジメントにとっても精神的なショックとなるでしょう。
一方で、「離職が無い会社」は良い会社なのでしょうか?これも決して良いわけではない、ということも理解できるでしょう。一般的に日本企業は「メンバーシップ型組織」と呼ばれ、長期雇用を前提とした「離職率の低い組織」を志向してきました。その良い面もあるのですが、行き過ぎると「問題社員が抜けていかない」「頑張らなくてもよいぬるま湯組織」という状態になってしまいます。
すなわち、離職率は高すぎても、低すぎてもいけません。「適正水準」があると言えます。ではその水準とはどの程度なのでしょうか?
これは業種によっても異なります。
製造業は、安定的な品質を生むことが最も重要です。それを実現するのは、「技術の熟練」「良好なチームワーク」です。従い、離職率をなるべく抑えてじっくりと人を育成し、また組織内の人間関係をはぐくむことが合理的です。人がコロコロ入れ替わると、ミスや不良品が増えやすくなるからです。
私の観察では、製造業における離職率は5%から10%程度が良いでしょう。タイの日系製造業で離職率が1-2%という数字を聞くことがありますが、これは低すぎます。人事評価制度が機能せず、「ぬるま湯」になっている場合にこうした数値を示すことがあります。
一方で、サービス業はもう少し高い離職率が許容できます。20%前後も珍しくありません。競争戦略上、離職率を高く保っておくことも合理的な面もあります。
例えば営業会社、IT企業、金融産業、などは優れた「個」が大きな利益を生み出すことがあります。そうした業種においては、優秀な人をいかに採用するかが競争上のポイントです。人材は「出」がないと「入」は増やせませんから、適切な離職がある程度大切になるわけです。
とはいえ、そうした業種でも離職率が30%を超えてしまうと、それは行き過ぎでしょう。30%ということはざっくり言うと3年ですべての人が入れ替わるという数値です。これでは組織のナレッジが継承していけませんし、いつまでたっても新人を育成しているような落ち着きのない組織になってしまいます。
なお、小売り業やホスピタリティ産業なども離職率が高くなりがちな業種ですが、ITや金融ほど高い離職率を許容すべきではないでしょう。いかにオペレーションとサービスを標準化し、「サービスの均質性」を保つかが価値の源泉ですので、発想は製造業に近いと言えます。従い、離職率はできるだけ抑えく、できれば10%前後を保てるとかなり安定したサービス提供ができるでしょう。
離職率は、高すぎず、低すぎず。
自社の「業界特性」や「事業特性」に合わせた水準を目指すことが大切です。
ここまで考えてくると、離職にも「良い離職」と「悪い離職」があることがわかると思います。最後に、それぞれの特徴を整理してみます。皆さんの会社には良い離職が多いのか、悪い離職が多いのかをチェックしてみてください。
■良い離職の特徴
□企業理念に合わない人が辞めている
□成果を出せない人が辞めている
□人事評価で低い評価のついた人が辞めている
□離職者が別の会社でさらに活躍している
□離職者とも良好な関係性が保てている
■悪い離職の特徴
□辞めてほしくない人が辞めている
□成果の高い人が辞めている
□仕事内容や人間関係が理由で辞めていく
□異業種に転職していく
□離職者を会社がお互いに嫌いあって辞めていく
いかがでしょうか?
「離職者が別の会社で活躍する」ことがなぜ良いのか?と思われるかもしれません。確かにずっと自社で活躍してくれるのが一番ですが、優秀な人が環境を変えながら成長し、活躍してことは、世の中の常です。一般に「人材輩出企業」と言われるような一流企業は、言い方を変えればどんどん人が辞めているということです。同業他社から引き抜かれるということは、それだけ自社が業界から高く評価されている証拠です。できれば辞めてほしくないし辞めないよう社内の改善はするべきですが、一定程度避けられないことであるとも心得ましょう。
では離職率をコントロールするためにはどうしたらよいのか。それについてはまた次回に書いてみたいと思います。
*タイ語版はこちらです。ぜひご同僚のタイ人の方にもシェアをお願いします!
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Credit:
Photo(s) by: Ariya J