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ヒトのモチベーションを高めるメカニズム【動機付け理論まとめ②】

25 12月.2024


前回の記事では、「動機付け(モチベーション)」の定義と、主な学術研究のうち「コンテンツ・セオリー」というジャンルについてご紹介しました。

本稿では、その他の大きなカテゴリである「プロセス・セオリー」と「ジョブデザイン・セオリー」について概説させていただきます。
 

◎プロセス・セオリー
プロセス・セオリーは、個人の認知プロセスに焦点を当てたアプローチの一つです。本記事ではその中でも主要な三つの理論についてご紹介したいと思います。
 

まず一つ目は、1960年代にブルームによって提唱された『期待理論』です。ブルームによると、モチベーションは人が努力を発揮する際の意思決定に影響を与えると主張しています。

そして、職場で発揮される努力の程度は、以下の方程式にて導出されると説明しました。

F = V × I × E
F:発揮される努力
V (valence):努力の結果得られるもの(=成果)に感じる価値
I (instrument):期待する成果を実際に得ることができると考える主観的確率
E (expectancy):期待する報酬を得ることができると考える主観的確率

例えば、個人的に興味のあること(関心領域)と、実際に仕事としてやっていることが一致している人の場合、仕事を通じて得られるもの(新しい知識やスキル、自己成長感など)に感じる価値は高いでしょうし、好きなこと・得意なことに対しては前向きに取り組める(=主観的確率は高くなる)と考えられます。

つまり、これら三つの要素を高いレベルで持つことができ、結果として高い努力を発揮することになると考えられます。

反対に、本意ではないことや“やらされ感”を感じながら仕事をしている人にとっては、発揮される努力レベルは低くなると解釈できます。
 

二つ目の理論は、ロックとレイサムによって提唱された『目標設定理論』です。

彼らは、より具体的で挑戦的な目標を設定することで個人や組織のモチベーションとパフォーマンスの向上につながると主張しました。

つまり、目標設定のやり方とその達成に向けたプロセスによってモチベーションは変化するという結論です。

また、目標設定プロセスにおける個人のコミットメントとフィードバックの重要性も強調しており、目標達成に向けて進捗を管理するとともに必要に応じ目標の修正を行うことが重要であると述べています。
 

最後に、アダムスによって提案された『公平理論』は、人々は他者との関係において公平性と公正さを求め、自らが知覚した不公平を減らそうとする動機があるということを示しています。

他者と比較する要素として、インプット(仕事にかけた時間、努力の程度、スキルレベルなど)とそれに対する報酬(給与、福利厚生など)があります。

例えば、ある人が他の人と自分を比較し、「自分はその人よりも資格を多く保有し時間効率よく業務をこなし、そのうえ二倍の成果を出している。それにも関わらず、自分が受け取っている報酬は相対的に少ない(=インプットに見合わない)」と感じている場合、会社の自分に対する扱いは十分ではないと考え、モチベーションの低下につながる可能性があります。
 

◎ジョブデザイン・セオリー
ジョブデザイン・セオリーは、仕事そのものや仕事の特性がどのように設計されるか、という点を重要視しています。

その中でも、ハックマンとオルダムによって提唱された職務特性モデル(Job Characteristics Model: JCM)は、ジョブの定義の中でモチベーションに影響する主要な五つの特性を特定しました。それは、「求められるスキルの多様性」「タスク完結性(タスクの開始から完了まで関わることができる)」「タスクの重要性」「タスク遂行時の個人の自律性」「行動結果に対するフィードバックの有無」の五つです。

このモデルのメカニズムは、「スキルの多様性」「タスク完結性」「タスクの重要性」の三つの要素がジョブの価値を高め、「自律性」が個人のパフォーマンスに対する責任感を向上させ、「フィードバック」がその効果的な示唆によって個人パフォーマンスを改善する、というもので、この考え方をベースにモチベーション潜在スコア(Motivation Potential Score: MPS)と呼ばれる「個人の仕事の充実度」を計算するための方程式を以下のように定義しています。

 MPS = {スキルの多様性 + タスク完結性 + タスクの重要性}/3 × 自律性 × フィードバック

例えば、あるジョブが高いMPSスコアを持っている場合、その仕事は従業員を動機付け、彼らのニーズを満たし、高いパフォーマンスを引き出すことが期待されます。

つまり、これら五つの特性を考慮してそれぞれのジョブを設計することで、マネージャーはメンバーのモチベーションを促進することができると考えられます。

一方で、この理論では、そのように設計されたジョブの中身と個人の趣向や興味との適合性(つまり、そのジョブを“やりたいと思っているかどうか”という個人の意志)については考慮されていません。
 

ここまで二編に亘り動機付け理論についてご紹介してきましたが、ご承知の通り主な研究成果は欧米で提唱されたものばかりで、欧米的でワールド・スタンダードな働き方や労働慣行をベースにして主張されています。

したがって、いわゆる日本企業的な「新卒一括・総合職採用」を前提とした「あいまいなジョブ・ディスクリプション」と「会社主導の柔軟な人材配置・ジョブローテーション」という文脈における有用な動機付け理論は未だ確立されていないというのが現状です。
その意味で、日本人に対する効果的な動機付けの手法についてはより深い考察が必要になるかもしれません。

なお、タイにおいては、国民文化的には同じアジア圏として日本と共通する価値観を持っている部分もあるものの、雇用慣習・仕事観などは欧米に近い考えを持っているタイ人の方々も多いため、ここでご紹介したような理論の活用の余地はあるかもしれません。
 

参考文献:
Armstrong, M. and Taylor, S. (2014) Armstrong’s handbook of human resource management practice. 13th ed. London: Kogan Page Limited.
Gagné, M., Forest, J., Vansteenkiste, M., Crevier-Braud, L., Van den Broeck, A., Aspeli, A. K., Bellerose, J., Benabou, C., Chemolli, E., Güntert, S. T., Halvari, H., Johnson, P., Indiyastuti, D. L., Molstad, M., Naudin, M., Ndao, A., Olafson, A. H., Roussel, P., Wang, Z., and Westbye, C. (2015) ‘The Multidimensional Work Motivation Scale: Validation evidence in seven Languages and nine countries’. European Journal of Work and Organizational Psychology, 24, pp. 178-196.
Robbins, S. P. and Judge, T. (2023) Organizational behavior. 19th ed. Harlow, United Kingdom: Pearson.

Mullins, L. J. (2011) Essentials of organisational behaviour. 3rd ed. Harlow, United Kingdom: Financial Times Prentice Hall.
Tóth-Király, I., Morin, A. J. S., Bőthe, B., Rigó, A. and Orosz, G. (2021) ‘Toward an Improved Understanding of Work Motivation Profiles’, Applied Psychology, 70, pp. 986-1017.
Woods, S. A. and West, M. A. (2020) The psychology of work and organizations. 3rd ed. Australia: Cengage.

(Armstrong and Taylor, 2014)
(Shepperd, 1993)
(Woods and West, 2020)
(Locke and Latham, 2019)
(Robbins and Judge, 2023)
(Adams in Berkowitz, 1965)
(Hackman and Oldham, 1976)
(Mullins, 2011)

 

Credit: Photo
By peshkov
By Srdjan Pav

 

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